丸の話

丸の話

綺麗な丸(真円)というのは、爪掻本綴では、織るのにかなり知識と経験が必要です。僕なんかはまだまだ全然織ることはできません。
経糸を機械で上げ下げするジャカードを使う織り方だと、比較的簡単に丸の柄は織り出せるのではないかと思います。もちろんジャカードを動かすための紋(柄)データの作成や、機械の調整などの面で難しいところはあるかと想像しますが(経験がないので)。
人の目で見て手を動かして、経糸をすくって横糸を織り込んでいく爪掻本綴では、少し織り込むところがずれたりすると曲線が歪んでしまい、織り上がったときに如実にそれが表れてしまいます。極端な例ですが、フリーハンドで真円を描くのと、パソコンのお絵かきソフトで描くのとの違いを考えると、イメージしやすいかもしれません。
真円に限らず、楕円もそうですし、三角形も難しい。普通の四角形は例外的に容易ですが、菱形は駄目です。多角形や星型なども苦しいと思います(段々個人の見解になってきた)。本音としては機械に任せたいですが…
つまりは、幾何学模様は難しく、あまり適さない、苦手分野だと言えます。それだけに美しく均整のとれた幾何学模様が織られた爪掻本綴の作品を見ると、そこに注がれた技術力と自制心を想像して感動すら覚えます。

うちにも幾何学模様の図案はありますし、腕の立つ職人さんたちによって、何本もの綺麗な丸や三角形が織られた帯が制作されました。丸や三角を綺麗に織るのは、技術の上達のためには必ず必要なことだと思いますし、これを会得してこそ、美しい曲線や直線が織れるようになるのだと思います。
しかし、幾何学模様系を織るのは、はっきり言ってしまうと効率は良くないと思います。手間はかかるし気も遣う、しかしその割に成果的にはそんなに大きくない(つまりコスパが良くない)と僕は認識しています。それはつまり、綺麗な丸も三角もどれも、世の中によくあるもの、見たことがあるものだからだと思います。なので、経験や専門知識がない人にとっては驚きを感じることも少なく、すんなり受け入れられてしまうのではないかと思います。
個人的には、そこでこれまで書いてきたようなことを補足的に説明するよりかは、爪掻本綴ならではの技術・表現で一目見て魅力の伝わるものを作りたいと考えているのですが、それも追究しすぎると、作る側の自己満足に陥ってしまうと思います。やはり、使う人が欲しいと感じるところへ着地させることを目指さないといけませんね。

と言いつつ、現在、幾何学模様系の新しい図案を鋭意制作中なのですが…単にありきたりの記号を並べただけのものにならないよう、工夫を考えていますが、これがやはり難しいですね。