職人としてのキャリアの終わり

職人としてのキャリアの終わり

今週、織り始めてから5ヶ月ほどかかった帯が出来上がってきました。
決して5ヶ月もかかるほどの柄ではありません。
織っているのは、80歳を超える織り手さんです。

もともと、だんだんと織り上がるまでの期間が長くなってきた方ではありましたが、今回はいつもの倍以上の時間がかかっていました。
ご本人は「忙しくて」としきりに仰っていましたが、年齢、それによる衰え、そしてご本人も認めていらっしゃいますが若干の認知症が進んでいることを考えると、もしかして今回で最後の仕事になるだろうか…と覚悟していました。

が、「織り上がりました」といつものように電話があり、仕事場へ伺うとこれまでとお変わりはなく、いつものように次の仕事も引き受けてくださいました。
出来上がった帯の品質も問題ありません。
それを受け取りながら「いろんな意味で不思議な人だなあ」といつものように思いつつ、その場を後にするのでした。

しかし、その方の背筋はひどく曲がっていて、腕も足も細い。
それを見ながら、この方はどのように職人としてのキャリアを終えられるのだろうか、と考えてしまいました。

 

 

僕がこの仕事を始めてから、引退された織り手さんは2人います。
お1人は、遠方にお住まいの方で、ある日織り上がった帯を送ってこられた後、お電話で「今回で終わりにしたいと思います」という旨を伝えられました。
もう1人の方は、ご病気のため、仕事への意欲はあれども実作業がままならない状態になり、ご家族の勧めもあり引退となりました。比較的近くにお住まいでしたが、その後遠方へ引っ越されました。
お2人ともに、その後お会いしに行くといったことは叶っていません。

現在、お仕事をお願いしている中で、90歳代がお1人と、80歳代が3人いらっしゃいます。
皆さんお元気ですが、誰しも衰えは避けられないし、仕事から離れるときは必ず訪れる。
ご本人(あるいは周りの人)がどのようなタイミングで決断を下すのか。
この方々と日々接していると、ここまで長く続けてこられたのだから、不本意な形ではなく本人が納得できた上で、職人としてのキャリアを終えられるといいな、と切に思います。
そして、こちらとしても、ある日突然終わりになって離れてしまうのではなく、きちんとこれまでの働きを労い、感謝を表せることができればといいな、と思います。