糸染めの難題

糸染めの難題

 

この写真の帯は、自分の中で長らく挑戦したいと思っていたことが結実したもので、少し感慨深いものがあります。
流水の文様の白、その背景には境目をぼかしながらの4色が配置されているのですが、この4色は、あえて色ムラになるように糸染めしたものです。
そのおかげで、織ったときに微妙な濃淡のゆらぎが生まれ、絵を描いたような表現になる、という効果が出ています。
このムラ染めの糸は、染め屋さんにお願いするのではなく、全て自分で染めました。
そして、それこそが長らく頭の中にあった挑戦でした。

この「自分でムラ染めの糸染めをする」ということにおいて、達成するべき点は2つ。
1つは、自分のイメージ通りの色に染める、ということ。
もう1つは、自然な色ムラの表現になるように染める、ということです。
イメージ通りの色にするためには、染粉を調合して色を合わせていくのですが、頭の中の色にレシピなどは無いので、勘を頼りに微調整を繰り返しながら色づくりをします。
手染めをするプロの染め屋さんも恐らく同じようなやり方だと思いますが、この色合わせが染めの技術の核心ですし、染めの難しさはこれに尽きると思います。
今回の自分の出来としては、及第点といった感じです。まだまだ道は険しいと感じます。
そして、色を合わせつつ、自然な色ムラになるよう染めるのですが、色ムラというのは基本的にコントロールできないものなので、これまでの経験をもとにある程度予想は立てますが、出たとこ勝負の要素もまだ大きいです。
しかし、自分でムラ染めをする場合、どんな柄のどこの部分に使うかは把握できるので、それをもとにできることはまだまだあるな、と感じました。
色ムラに染めるのはランダムな難しさがありますが、糸に色を均一に染めるのは純粋な技術が必要で、さらに難しいものだと思います。
なので、最終的な目標は、狙った色をムラなく均一に染める、ということになります。

織屋の本分は織ることだし、自分は職人でもないのに、なぜ糸染め、しかも草木染めなどではなく化学染料の染めにチャレンジしているのか…
ということに対しては、将来、頼むところがなくなるかもしれないから、ということに尽きます。
つまり、自分でやるしかない、という状況になる可能性があるということです。
今現在お願いしている手染めの染め屋さんには後継者がいません。なので、いずれ他を探すことになる公算が高いです。しかし他の当ては今のところありません。
機械で糸染めをする染め屋さんはこの先も残っていくと思われますが、爪掻本綴では小ロットで多色の色糸を必要とするので、以前と同様の諸条件でできるかは疑問です。もしかすると不可能かもしれません。
この先何十年とこの仕事をしていく立場としては、糸染めについては結構な危機感を密かに持っています。なので今、いろいろと取り組んでいます。
杞憂に終わるのが一番良いのですが…
そして、もう1つ挙げるならば、表現の幅が広がるだろう、ということです。
自分のイメージ通りの色、そしてイメージ通りの染め方ができれば、自分の頭の中のものや依頼を受けたものをアウトプットできる精度が上がることでしょう。また、これまで手間と費用がかかるからと避けていたことを自分で引き受けられることもあり得ます。そして、ムラ染め然り、これまでの爪掻本綴で見ないような新たな表現ができるかもしれません。

まだ一歩目を登り始めたばかりですが、将来、ものづくりが制限されないように、頑張っていきたいと思います。