雑記帳

 
サラリーマンから綴織の家業に入った3代目です。
日々の制作のことや思うことを綴っています。

 

「次、何つくろうか…?」
というのは、制作を続けていく上で避けては通れない問いとなります。
爪掻本綴の帯は、大量生産ではなく1本ずつ織るのが基本です。
これはつまり、基本的に同じものを作らない、ということを意味していて、既存の柄であっても以前と同じ配色ではなく、どこかをアレンジして制作します。もちろん新作も精力的に考えていく必要があります。
このようなサイクルを続けているので、次に何をつくるか、ということは常に頭の中にあります。

 

そんな中、1本の帯がまた織り上がりました。
四角形が等間隔に並んでいる、という柄です。古典的な柄と比較するとモダンな印象に感じられるかもしれません。
「転がる四角」と名付けましたが、3段あるうちの真ん中の段の2つの四角が傾いていて、転がり出すような見た目にしています。
単に均等に並べるだけではなく、少し動きをつけることでユニークさが出せたら、と意図したものです。
また、今回の配色は、地の茶系色と近い色で揃えていて、全体的に淡くあっさりとした印象になっています。
角張った四角形と優しい感じの色の対比というのも個人的に面白いと思っていて、総じて、一風変わった雰囲気を醸せているのでは、とも思っています。

 

この柄は、今回が初回ではなく、以前に別の配色で一度制作しています。なので、この帯は2本目ということになります。
そして、それより前にも四角形の柄の系譜は綿々とあって、この柄よりも四角のサイズが小さく、転がらず整然と並んでいるものが主流でした。
そこから四角の大きさと傾きを変え、変化版として新たな流れをつくったのが前回制作のことです。

 

前回から大きく変わった点としては配色で、四角形の部分を紫根染めの紫色で織っていました。
紫根染めの紫は品があって鮮やかな色で、それの濃淡を用いています。そして地色はオフホワイトのかなり淡い色でした。
なので、かなりコントラストが強く、今回の淡くあっさりとした表現とはまた違ったものでした。

柄の位置関係も少し変わっていて、前回と比べて各々の段の間隔を少し広げています。これによっても、少し印象が変わる要素になっているかと思います。

そして、配色と並んで大きく変わったところは、柄の部分の織り方です。今回は、四角形を周りの無地場よりも少し盛り上がるような立体的な表現にしています。
綴は、組織が平織りと決まっているため、織り方のバリエーションが多くなく、逆に言えば、少ない選択肢を駆使して表現に変化をつけているのです。
この立体的な織りは、複数色の糸を合わせて織るので、色を混ぜるような感覚の配色ができます。今回の四角の部分も、それによって少しまだらな色合いになっていて、角度や光源によって見え方が少しずつ変わってくる面白さがあります。

 

と、このような背景があって「転がる四角」の2本目は出来上がりました。
従来から柄の調子を大きく変更した前回1本目の制作と、基本は変えず配色や織り方で変化をつけた今回の2本目。
振り返ると、後者の2本目ならでは難しさを感じた制作だったと思います。
思い切りよく踏み出した1本目のその後の2本目を、どういう方針で作るのか。どのように続けていくのか。
爪掻本綴は量産するものではないし、この柄は定番品でもないので、制作の機会は限られてきます。
その中で、できるだけ思考停止の安易な焼き直しにならないよう、強く心がけています。

 

ちなみに、この次の3本目を作るなら、という構想もまだ途中ですが頭の中にはあります。
やはり四角形をどうするか、が焦点になっていて、転がりの部分の微妙な傾きに職人さんが手を焼いているようなので、そこをもっと制作面でも柄としても良くできるように思案中です。
ですが、それはまた機会が巡ってきたときのお楽しみというところです。

 

☆この度の2本目の柄の他の写真や、配色の糸、
そして、1本目の帯の写真や以前の別の四角柄の写真をこちらにまとめています。
是非ご覧いただければと思います。
https://hattori-t.com/works/korogarushikakunoobi/

 

 

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