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日本の伝統的な文様の1つ、「千鳥」。
他の古典文様とは一線を画すような可愛らしさがあり、織物に限らずさまざまなものに用いられ、人気があります。
縁起の良い柄として吉祥文様ともされているようですが、フォーマルな用途では見かけることは個人的にはほとんど無く、カジュアルなシーンで使われることの方が圧倒的に多いように感じます。

爪掻本綴においては、これまでフォーマル向けに作られてきた歴史が長く、千鳥柄のものというのは恐らくほぼ無かったように思います。
しかし時代の変化を経て、うちでもカジュアル向けのものも多く作るようになりました。
そして、つい数年前に千鳥柄の綴帯を制作しました。それがいわば「初代」のものです。

その「初代」のものは、確かに可愛く愛らしく、千鳥好きの方々には気に入っていただきました。
しかし、世の中によくある千鳥柄のサイズ感のまま、お太鼓の柄にしたようで、どうにも、小さい。
小さいので、遠目から見ると、せっかく可愛く織ってあるのに何の柄なのか判別しづらいのでは…?と感じていました。(もちろん近くで見ると可愛いのです)

 

そう、世の中の千鳥柄は小さいものが多く、さらにつけ加えると、数が沢山あるものが多い。
小さくて可愛い千鳥が何羽か(あるいはもっと)飛んでいて、それに波などの柄を足して1つのデザインにしているものが主流という印象でした。

千鳥柄は、形としてはそれほど複雑ではないとはいえ、形作って織るとなるとそれなりに手間がかかります。
それが沢山あると、単純にその数だけ手間が増えていきます。波などを足すとなると尚更です。
爪掻本綴は全て手織り、つまりは手仕事。手仕事の値段は基本的に手間が全てです。
なので、「普通に」良い千鳥柄を作ると、それなりの手間がかかり、結果それなりに良いお値段になってしまう。
前述のように、千鳥柄はカジュアルなシーンで活きるもの。
高価な千鳥文様、というのは、ちょっと筋が違うのでは?と思っていました。

なるべく手間がかからずに、それでいて良い感じに見える千鳥柄…というものを模索していたある日、ふと考えが浮かびました。
逆に、いっそのこと、めちゃくちゃ大きくすれば良いのでは?
結果的に1羽ならば、それほど手間はかからずに済むのではないか?
初めは自分でも冗談のように捉えていましたが、案外悪くないアイデアなのでは?と徐々に考えるようになりました。
試しに絵を描いてみると、実現できそうに思えてきて、こうなると実験的精神に火が付くというもので、最終的に、お太鼓からはみ出すほどの巨大な千鳥が誕生しました。
「大千鳥」の出来上がりです。

 

実際に制作するにあたっては、千鳥をどう巨大化するか、ということに試行錯誤しました。
名古屋帯として作るので、お太鼓の形になった時にどう柄が出るようにするか。
どうせ大きくするのなら、お太鼓にギリギリ収まるくらいのサイズにしたい。
でも、変にはみ出したり見切れたりせず、一目見てちゃんと千鳥だと分かるように表したい。
となると、よくある千鳥柄を単純に拡大するだけでは駄目で、結構なバランス調整を必要としました。
形を崩しつつも、やり過ぎず、ちょうどいい塩梅に着地させる…
柄としては、要素も少なく、かなりシンプルなので、どのような形にするかで印象がほぼ決まるだろう、と思い、何度も元絵の線を引き直したことを覚えています。
結果として、違和感なく千鳥に見えるというように評価されているので、こだわった甲斐があったな、と感じています。

もう1つ、心がけたこととしては、配色を抑え気味にすることです。
柄が大きく、お太鼓の形になった際も、柄がほとんどの割合を占めるので、鮮やかな色を使うと印象が派手になり過ぎるだろう、と考えたのです。
なので、今回の制作では、渋めの茶色2色をメインに据えました。
柄の真ん中あたりで、ぼかしを経て色が切り替わります。色差があまりなく気づきにくいかもしれませんが…
しかし単色にすると全体がのっぺりとしそうで、色差のある2色だとぼかしの箇所が見え過ぎてしまうと考えたので、今回はこれで良かったと思っています。
ただ、1つ作ると他のことも試したくなるもので、次に制作するなら、もっと明るく彩りのあるものにしても良いかな、とも思います。

 

今回の制作では、千鳥の大きさで行き詰まっていたところから、思い切って逆転の発想に振り切ってみた。結果的にそれで良かったのだろう、と思います。
もちろん、どんな柄や文様でも通用するやり方ではない、とは思いますが、却ってそれが千鳥という文様の強さを感じさせることにもなりました。
つまり、大きさや姿形が変化しても、ちゃんと認識できる。分かってもらえる。
連綿と受け継がれてきた理由が、そのあたりにもあるのだろうと思います。

この柄を見た人の中には、千鳥自体を「可愛い」と感じたり、その大きさに「ん?」と違和感を覚えたり、あるいは「なんだこれ!」と驚いたりする人もいることでしょう。
どのようなものであれ、それは、この帯を見た人の気持ちが動いた、ということ。
それは、広い意味での心の昂揚だと思っているのですが、それこそが、この何事も便利な時代にわざわざ手間暇をかけてものを作る理由の1つだと考えています。
そういったものづくりを、この先も続けていきたいですね。

 

☆この帯の柄の写真や、配色、下絵、そして以前の柄の写真をこちらまとめています。

是非ご覧いただければと思います。

https://hattori-t.com/works/daichidorinoobi/ 

 

 

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