雑記帳

 
サラリーマンから綴織の家業に入った3代目です。
日々の制作のことや思うことを綴っています。

 

日々、制作をする際にどういうことを考えているかというと、大きく2つあります。
1つは、作っている品物を使う人が喜んでもらえたら良いな、ということ。
そしてもう1つは、その制作を通して自分の中にあるアイデアを形にしたい、ということです。
どちらも自分にとっては重要で、どちらかが優先ということはありませんが、順番があるとすれば、アイデアの方が先なのかな、と思います。
きっかけとなるのはアイデアの方で、それをどのように加工すれば喜んでもらえる形になるだろうか?という考え方なのだろうと思います。

そして、思いついたけれども、使いどころが分からないアイデアというものがあります。
どちらかというと、そういったものの方が多いかもしれません。
柄や配色、織りの工夫など、いろいろな種類がありますが、それ単品では断片的で形にならないので使いどころがない。
他のものと組み合わせることで相乗効果のようなものが起きて、ようやく実現できる…ということが多いです。
なので、思い浮かんですぐに採用されなくても、捨てずに寝かせておいて、使えるときが来るのを待っている、というものが結構あります。

 

さて、この「飛び魚」の柄の帯。
高くうねる波。はじけ飛ぶ水しぶき。そして波頭の間を跳ねる飛び魚。といったものを表現しています。
このように説明できるくらいにはきちんと形になっているこの柄ですが、もともとは断片的であった個々のアイデアを組み合わせることで1つの柄として制作することができた、というものです。

まずは水しぶき。
ここでは波からはじける水しぶきとして表現されていますが、もとは「ドット柄」というところから来ています。
綴帯の柄で、存在感のあるドット柄を表すとすればどうすれば良いか?というところがスタートです。
存在感を高めるのだから、地色に対して配色は濃く強い色にしたい。さらにそれを粗い組織(20枚綜絖)で織れば立体感があり浮き出るようなものにできるかもしれない。
そして各ドットを単色にせずにさまざまな色を合わせて織ることで、単調にならず面白い色の表現になるようにする。
しかし、そういったドットを無作為に並べるだけだと、既存のものに印象が似てしまう可能性があるし、なるべく避けたい。全体の一部分として使える案はないだろうか?
というところで、このドット柄については一旦ストップしていました。

次に青系統の配色です。
青系統の色、そして濃淡のグラデーションというのは自分の好みでもあり、それを用いた制作をしたいという思いがありました。
青といっても、落ち着いた色やくすんだ色ではなく、なるべく深くそして鮮やかな青。そしてそこから明るく移り変わるグラデーション。
こういった表現は、小物では比較的やりやすかったのですが、帯の柄となると、うまく表せる方法がなかなか思いつかなかったのでした。
単純に既存の柄に当てはめればいい、というわけにもいかず。青というのは難しいと感じていました。
活用できるとすれば、海や水といったモチーフだろうか?というところで、これも止まっていました。

そして、波です。
波の曲線というのは、爪掻本綴の表現が活かせるものではあるので、波を用いた柄も制作したいと考えていました。
しかし、波の表現あるいは文様というのは複雑なものが多く、手仕事で織るとなるとどうしても手間がかかるものになります。
しかも古典柄のような連続した模様となると尚更で、もっとシンプルに表せるアイデアはないだろうか?と考えていました。
そこで先の2つ、水しぶきと青系統のグラデーションが登場します。
ドットを水しぶきとして、波とセットにすれば表現がしやすくなる。
そして、波を帯の横幅を横断する連続したものにして、その中で色を変化させれば、グラデーションを表現することができる。
このような、3つのアイデアの組み合わせによって、だんだんと帯の柄として出来上がっていきました。

最後に飛び魚。
帯のタイトルが飛び魚なので、そこから始まったのかと思いきや、実際は逆で、一番最後といってもいいくらいでした。
ここまでで出来上がっている、波がうねりしぶきが舞う、という風景にハマるパーツとして適していたということが1つ。
そして、勢い良く飛翔する、というところから縁起が良いとされる飛び魚を入れることで、帯の柄として意味のあるものにする、ということ。
この2つの理由から飛び魚を配置し、図案が出来上がりました。
そこからは、波の部分はグラデーションの配色に、しぶきの部分はなるべく色を組み合わせる配色にして、全体の存在感を高めるために立体的な織りにしました。
こうして、飛び魚の帯が完成したのでした。
個性的ではありますが、可愛げのある帯になったのではないか、と思っています。

 

思いついたことがすぐに効果てきめんであることは非常に稀で、帯の制作においてもアイデアが即座に形になることはほとんどありません。
しかしそれがどんなに駄目そうでも、簡単に諦めずなるべく貯めておくことが重要だと思います。
それが功を奏して、今回のように形になることがあるかもしれません。
アイデアというのは組み合わせだとつくづく思います。
こういった姿勢でいる限り、過去の再生産にならず、新鮮なものを作っていけると信じています。

 

☆この帯のいろいろな写真、他にも図案や配色などをこちらに載せています。
是非ご覧いただければと思います。
 ↓    ↓    ↓
https://hattori-t.com/works/tobiuogaranoobi/

 

 

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